先人たちの生みだした叡智を、
長い歴史の中で磨き上げながら、
日本の美意識の結晶である
伝統を築き上げてきた京都。
その伝統に息づく革新性を継承し、
時代が求める感性の息吹を
この街に吹き込むために、
「新風館」は装い新たに生まれ変わりました。
それは、多様な個性と価値観が混じり合う
街に開かれたこの場所から、
新しい賑わいと文化を創出し、
その輪を世界に広げていくということ。
いにしえから現代に受け継がれる伝統を
これからも守り続けるために。
この場所から未来に向けて
物語を紡いでいこうと思います。
HISTORY
京都が古都から近代都市へと移行しつつあった大正15年(1926年)、「新風館」の前身となる「旧京都中央電話局」が竣工しました。設計は逓信省技師の吉田鉄郎。彼は近代モダニズムの先駆者と呼ばれ、「東京中央郵便局」(現KITTE)や「大阪中央郵便局」などの作品でも知られています。そんな吉田の代表作である「旧京都中央電話局」は、やがてその歴史的な価値が認められ、1983年に京都市指定・登録文化財一号に登録。創建当時の貴重な姿を現代に伝えてきました。
そして、2001年。将来の再開発を前提に、旧電話局の外観をそのままに、英国の著名な建築家、リチャード・ロジャースが増築建物の意匠を手がけた商業施設が開業。京都に新しい風を吹かせたいという想いから、その施設は「新風館」と名付けられました。ヨーロッパのパティオのように中庭を囲んで全体を口の字型に形成。中庭には円形のステージがあり、開業当初から地元FM局による公開録音やライブイベントなどが行われ、地域に愛されるとともに新しい人の流れが生まれました。
しかしながら、本格的な再開発を目指して、2016年に一時閉館。「伝統」と「革新」の融合という商業施設時代のコンセプトを継承し、京都の顔、そして街のランドマークとなる場所を作るべく、再開発がスタートしました。電話局から商業施設、そしてホテル・店舗・映画館からなる複合施設へ。2020年、待ちに待った「新風館」の新しい歴史がいよいよ幕を開けます。
ARCHITECTURE
「京都という場所とつながった、地域に開かれた施設を作りたいと考えた。まず平安時代から様々な庭が造られてきた由緒正しい土地に、地域と施設、現代と過去がつながる濃密な庭を造ろうとした。京都の和の伝統を引き継ぐ木組みと、日本の近代建築の巨人、吉田鉄郎の設計した『旧京都中央電話局』のレンガがこの中庭で出会い、木とレンガが新しい会話を始めるだろう。京都らしい姉小路通り、東洞院通りに対しては、細やかなメッシュで、それらの通りの繊細さに応答した。そしてルーバーとメッシュは、光と風を優しくろ過する環境装置でもある。さらにコンクリートに酸化鉄を混入して、塗装に頼らない暖かい発色を試みた。このように隅々まであらゆるデティールとマテリアルにこだわって、建物と土地と歴史をひとつに繋げた。『エースホテル』もまた、地域とホテル、コミュニティとゲストを繋ぐことで、ホテルというものの定義を変えようと試み、世界の街の空気を柔らかく変えつつある。その理念と建築が共振することを願っている」
隈研吾
1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。2009年より東京大学教授。
国内外で多数のプロジェクトが進行中。国立競技場の設計にも携わった。
主な著書に『ひとの住処』(新潮新書)、『点・線・面』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。
L字の既存建築形状を活用した中庭を中心に、面する3つの通りにはそれぞれ異なる表情のエントランスを設け、その全てが路地のような細長い通路を介して中庭へと接続する構成としました。建物内の通路やホテルのロビー空間は壁を雁行させることで、変化に富んだヒューマンスケールな都市空間を目指しました。京都の街並みを特徴づける、町屋や路地のスケールを敷地内まで引き込むことで、地域の文化を取り込むという施設及び「エースホテル」の理念を体現しました。
硫化銅板の大庇や角度の変わる銅色のルーバーがヒューマンスケールな京都の街並と連続し、南面・東面を覆う工業的なクリンプ金網のスクリーンは、工業建築である既存建物と調和します。建物内を3500mmグリッドで横断する大断面(250×500)の木組み架構は、部分的に外部まで連続することで空間に広がりと奥行きを与えています。
都市の中心に自然の風景を挿入します。中庭、通り庭(パッサージュ)、光庭(吹抜け)、屋上庭園の4つの特徴の異なる庭を設けることで、建築全体で、豊かな自然を感じられる構成としました。また屋上庭園には室町時代の貴重な遺構である滝石組みの復元を行い、この場所の歴史の継承を試みました。
滴(しずく)が地面に落ちて広がる様子を段階的に3Dモデル化し、上下反転させてランダムに積み重ねた彫刻。生命力の永遠性を象徴すると共に、全体が多面体で構成され、自然光の変化に合わせて面から面へ、光が移り変わる。
企画:The Chain Museum
協力:SCAI THE BATHHOUSE/Sandwich Inc.
名和晃平
1975年生まれ。彫刻家、京都芸術大学教授。2009年、京都に創作のためのプラットフォーム「Sandwich」を立ち上げる。
独自の「PixCell」という概念を軸に、様々な素材とテクノロジーを駆使し、彫刻の新たな可能性を拡げている。